【宿泊業の経営改善シリーズ 第1回】まず何を見る?宿泊施設の経営を5つの数字で把握する

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【宿泊業の経営改善シリーズ 第0回】宿泊業の経営改善は、なぜ「全体」で考える必要があるのか

宿泊業の経営改善は、集客だけでは進みません。稼働率・客室単価・利益・人材・資金繰り、そして災害など想定外の事態への備えまで、宿泊施設の経営を全体で考える必要性…

料理には自信がある。温泉にも特徴がある。

スタッフも丁寧に接客していて、お客様から「良かったよ」と声をかけてもらうことも多い。

地方の旅館や小規模ホテルには、そんな「良い宿」がたくさんあります。

では、その良さは、宿泊料金や売上、そして利益にきちんとつながっているでしょうか。

ここは、意外と分かりにくいところです。

例えば、

客室を改装した。
料理の内容を良くした。
アメニティにもこだわった。
スタッフ教育にも時間をかけた。

それによってお客様の満足度は上がったとしても、宿泊料金が以前とほとんど変わっていなければ、増えたコストだけを宿側が負担している可能性があります。

逆に、売上が前年より増えていても、値下げをして客室を多く販売した結果であれば、「忙しくなった割には利益が残らない」ということもあります。

こうした状態を確認するために見るのが、経営の数字です。

数字というと難しく感じるかもしれませんが、最初から細かな財務分析をする必要はありません。

まずは、自分たちの宿が「どれだけ売れ、いくらで売れているのか」を把握するところから始めれば十分です。

今回は、私が宿泊施設の経営状況を確認するときに、まず見ることが多い5つの数字について整理します。

あわせて、実際に数字を入力して使えるExcelの分析シートも用意しています。


まず見たい5つの数字

最初に確認したいのは、

  1. 宿泊売上
  2. 販売室数
  3. 稼働率
  4. ADR(平均客室単価)
  5. RevPAR(販売可能客室1室当たり売上)

の5つです。

旅館の場合は、これに「一人当たり売上高」も加えておくと、さらに実態が分かりやすくなります。

ADRやRevPARという言葉は少し専門的に聞こえますが、計算はそれほど難しくありません。

重要なのは用語そのものを覚えることではなく、数字が変わったときに「なぜ変わったのか」を考えられるようにすることです。


売上を見るだけでは、宿の状態は分からない

最初に見るのは、もちろん宿泊売上です。

例えば、ある旅館の売上が、

4月 1,880万円
5月 2,480万円
6月 1,382万円

だったとします。

月ごとの推移を見るだけでも、繁忙期や閑散期はある程度分かります。

前年同月や予算とも比較できれば、さらに状況は見えやすくなります。

ただし、ここで大切なのは、売上だけで良し悪しを判断しないことです。

例えば、前年より売上が10%増えていたとします。

それが、宿の価値が評価されて宿泊料金を上げられた結果なのか、それとも料金を下げて販売室数を増やした結果なのかでは、意味が全く違います。

同じ売上でも、「どうやってその売上をつくったのか」を確認する必要があります。

そのために、次に販売室数を見ます。


同じ2,000万円でも、400室で売るのと500室で売るのでは違う

例えば、月間の宿泊売上が2,000万円だったとします。

400室販売して2,000万円なら、1室当たり5万円です。一方、500室販売して2,000万円なら、1室当たり4万円になります。

売上だけを見れば同じ2,000万円ですが、現場では100室分も多くのお客様を受け入れています。

その分、料理を提供する回数も、清掃する客室数も、接客の機会も増えます。

特に料理や接客を大切にしている旅館では、販売室数が増えるほど現場の負担も大きくなります。

ですから、

「いくら売れたか」と同時に「何室売って、その売上をつくったのか」

を見ることが重要です。

販売室数を日別や曜日別でも残していけば、「土曜日は埋まるけれど金曜日が弱い」「日曜日の販売が少ない」といった、自施設の売れ方の特徴も見えてきます。


稼働率は「客室をどれだけ使えたか」を見る数字

次に見るのが稼働率です。

稼働率は、

販売室数 ÷ 販売可能室数

で計算します。

例えば、20室の旅館が30日間すべて営業すれば、20室×30日で600室泊が基本的な販売可能数になります。

そのうち420室を販売したなら、稼働率は70%です。

ただし、実際の宿泊施設では「20室あるから毎日20室売れる」とは限りません。

改装中の客室があることもあります。設備故障で一定期間販売できない場合もありますし、人手不足のため意図的に販売室数を絞っている施設もあります。

そこで、今回作成した分析シートでは、

販売可能室数 = 室数 × 営業日数 − 販売除外室数

として計算できるようにしています。

例えば、20室で29日営業すれば580室泊ですが、工事や人員体制などの理由で10室泊を販売しなかったのであれば、実際の販売可能室数は570室泊です。

保有客室数だけでなく、実際にどこまで販売できたのかを見る方が、経営の実態に近くなります。


ADRを見ると「宿の価値をいくらで売れたか」が見えてくる

ADR(Average Daily Rate)は、平均客室単価です。

計算式は、

宿泊売上 ÷ 販売室数

です。

例えば、宿泊売上1,880万円、販売室数400室なら、ADRは47,000円です。

この数字を見るときに考えたいのは、「47,000円が高いか安いか」ということだけではありません。

料理を良くした。客室を改装した。サービス内容を充実させた。それなのにADRが何年もほとんど変わっていないのであれば、宿の良さを価格に十分反映できていない可能性があります。

近年は、食材費、人件費、光熱費など、多くのコストが上昇しています。

サービスの質を維持しながら以前と同じ価格で販売を続ければ、当然ながら利益は圧迫されます。

だからこそ、「何室売れたか」だけではなく、**「いくらで売れたか」**を見る必要があります。


RevPARで「単価」と「稼働率」を一緒に見る

もう一つ重要なのがRevPAR(Revenue Per Available Room)です。

日本語では、販売可能客室1室当たりの売上を表します。

計算式は、

宿泊売上 ÷ 販売可能室数

です。

また、

ADR × 稼働率

でも計算できます。

例えばADR47,000円、稼働率72%なら、RevPARは約33,800円です。

RevPARが便利なのは、稼働率と客室単価を一つの数字で見ることができる点です。

例えば、

A月は稼働率80%、ADR40,000円。
B月は稼働率70%、ADR50,000円。

だったとします。

A月のRevPARは32,000円、B月は35,000円です。

一見すると稼働率80%のA月の方が良さそうですが、販売可能客室1室当たりの売上はB月の方が高くなっています。

つまり、稼働率が高いことだけで、その月の経営が良かったとは判断できないということです。

この点は、第2回の記事で詳しく取り上げています。


旅館なら「一人当たり売上高」も見ておきたい

旅館では、もう一つ「一人当たり売上高」を見ておくことをおすすめします。

計算式は、

宿泊売上 ÷ 宿泊人数

です。

例えば、宿泊売上1,880万円、宿泊人数880人なら、一人当たり売上高は約21,400円です。

旅館は、同じ「1室50,000円」でも、1名利用なのか2名利用なのか3名利用なのかによって意味が違います。

夫婦客が増えたのか。家族客が増えたのか。一人旅が増えているのか。

こうした客層の変化を確認するために、今回のExcelでは「1室当たり宿泊人数」も自動計算するようにしています。

宿のターゲットや商品の方向性を考えるうえでも、意外に役立つ数字です。


20室・年間宿泊売上約2.5億円の旅館で数字を並べてみる

数字は単月だけを見ても、なかなか判断できません。

そこで今回、20室・年間宿泊売上約2億5,000万円の旅館を想定して、24か月分の架空のサンプルデータを作りました。

2025年の宿泊売上は約2億4,300万円、2026年は約2億5,900万円という設定です。

夏休みや年末などの繁忙期は、稼働率とADRの両方が上がる。一方で、2月や6月などは稼働率が低くなるようにしています。

あくまで説明用の架空データですが、こうして24か月分を並べると、

「売上が増えたのは稼働率が上がったからか、それとも単価が上がったからか」

「前年よりADRは上がっているか」

「繁忙期と閑散期で価格に十分な差をつけられているか」

といったことが見えてきます。

そして、その数字を見ながら、

「自分たちが大切にしている宿の価値は、価格や売上に反映されているだろうか」

と考えてみることが大切です。


Excelは、このくらいから始めれば十分です

今回作成したExcelでは、

年、月、休業日数、室数、販売除外室数、宿泊売上、宿泊人数、販売室数

を入力すれば、

営業日数、販売可能室数、稼働率、ADR、RevPAR、一人当たり売上高、1室当たり宿泊人数などを自動計算できます。

前年同月との比較や月別推移のグラフも表示されます。

高度な経営管理システムを最初から導入する必要はありません。

経営企画の専任社員がいない小規模な宿泊施設であれば、まずは毎月同じ数字を一つの表に残していくだけでも十分意味があります。

宿泊施設 経営分析シート(サンプル入り)

20室・年間宿泊売上約2.5億円の架空の旅館データを入力しています。数値を自施設のものに入れ替えると、稼働率・ADR・RevPAR・前年比較・グラフが自動更新されます。

※メールアドレスなどの登録は不要です。
※20室・年間宿泊売上約2.5億円の架空の旅館データを入力したサンプル版です。
※数値を自施設のものに入れ替えると、稼働率・ADR・RevPAR・前年比較・グラフが自動更新されます。


数字を見るのは「管理するため」ではない

ここは、私が特に大切だと思っているところです。

Excelをきれいに作ることが目的ではありません。毎月たくさんの数字を入力することが仕事になってしまっても意味がありません。

数字を見る目的は、

「なぜ、この結果になったのか」を考えること

です。

例えば、売上が前年より10%減っていたとします。

「今年は悪かった」で終わるのではなく、稼働率が下がったのか、ADRが下がったのか、そもそも販売可能な客室数が減ったのかを確認します。

稼働率が下がっているなら、販売方法や商品を考える。

ADRが下がっているなら、料金設定や宿の価値の伝え方を考える。

販売可能室数が減っているなら、人員配置や業務改善を考える。

数字が分かれば、次に考えるべきことが見えてきます。


経営者や女将の「感覚」に数字を重ねる

私は、数字だけで宿泊施設を判断できるとは思っていません。

長年宿を経営している社長や女将と話していると、

「今年は予約の動きが遅い」

「最近は直前予約が増えた」

「以前より夫婦のお客様が多くなった気がする」

といった話が出てきます。

こうした現場の感覚は、とても重要です。

むしろ毎日お客様を見ているからこそ、数字より先に変化に気づいていることもあります。

大切なのは、その感覚を数字で確かめてみることです。

「平日が弱い気がする」のであれば、曜日別の販売室数や稼働率を見る。

「以前より安いプランが多く売れている気がする」のであれば、ADRを見る。

「最近忙しいのに、売上が増えていない」と感じるなら、販売室数とADRを見比べてみる。

現場で感じていることと数字をつなげる。

これくらいから始めれば十分です。


最初から完璧なデータがなくても構わない

支援先で、「これまでちゃんと数字を取っていないから分析できません」と言われることがあります。

でも、過去の数字が完璧でなくても構いません。

今月から始めれば、来月には比較できます。半年続ければ半年分のデータがたまり、1年続ければ翌年から前年同月との比較ができます。

重要なのは、過去にできていなかったことではなく、これから経営判断に使える数字を残していくことです。


宿の良さを、数字でも確かめてみる

料理、温泉、客室、接客。

こうした宿の魅力は、数字だけで測れるものではありません。

しかし、その魅力が経営成果につながっているかどうかは、数字から見えてくる部分があります。

サービスを良くしたことでADRは上がったか。

ターゲットを変えたことで一人当たり売上高は変わったか。

価格を上げても稼働率を維持できているか。

そうした変化を見ることで、自分たちが取り組んできたことが経営にどうつながっているかを確認できます。

まずは、

宿泊売上、販売室数、稼働率、ADR、RevPAR。

この5つを毎月見てみる。

そして数字に変化があれば、「なぜだろう」と考える。

ここが、宿の良さをきちんと経営成果に変えていくための第一歩だと思います。

次回は、ここで出てくる疑問、

「稼働率は高ければ高いほど良いのか」

について考えます。

満室なのに利益が残らないのはなぜなのか。良い宿だからこそ、稼働率だけを追わない方がよい理由を整理します。


自分たちの宿の数字を見ても、判断に迷う場合は

実際に数字を並べてみると、

「このADRはもっと上げられるのだろうか」

「稼働率は低いのか、それとも今の価格なら適正なのか」

「お客様の評判は良いのに、なぜ利益につながっていないのか」

といった疑問が出てくることがあります。

宿泊施設の経営は、数字だけではなく、立地、客層、料理、接客、人員体制なども合わせて見る必要があります。

良い宿なのに、その良さを商品・価格・販売・利益に十分つなげられていない。

そんな場合は、自施設の数字と宿の強みを一緒に整理しながら、改善の方向性を考えることも可能です。
「ADRをどこまで上げられるのか」
「売上は伸びているのに、なぜ利益が残らないのか」
といった疑問が出てくることがあります。

宿泊施設の経営は、数字だけを見ても判断できない部分があります。施設の立地や客層、人員体制、設備、借入状況なども含めて考える必要があります。

自施設の数字を整理したうえで、改善の方向性を一緒に考えたい場合は、宿泊業の経営改善支援についてお気軽にご相談ください。