【経営の基本シリーズ 第1回】事業の核は「誰の何を解決するか」で考える
〜自分がやりたいことを、お客様にとっての価値に変える〜

前回の記事では、創業アイデアを「選ばれ続ける商売」に変えていくためには、
どのようなお客様に、なぜ選ばれるのか
を考えることが大切だ、という話を書きました。
今回は、その出発点になる「事業の核」について考えてみたいと思います。
創業を考えている方と話していると、
「こういうお店をやりたいんです」
「この商品を販売したいんです」
「これまでの経験を生かして、こんなサービスを始めたいんです」
という話は、比較的すぐに出てきます。
当然だと思います。
そもそも「これをやりたい」という思いがなければ、わざわざ創業しようとは思いません。
ただ、そこから一つの事業として形にしていくためには、もう一歩考える必要があります。
それが、
「誰の、何を解決する事業なのか」
ということです。
「何を売るか」だけでは、事業の姿はまだ見えない
例えば、「パン屋を開きたい」という方がいたとします。
何をするのかは、これで分かります。
でも、経営を考えるには、もう少し知りたいところです。
- 通勤途中の人が、朝食を手軽に買えるパン屋なのか。
- 子育て世代が、家族で安心して食べられるパンを買える店なのか。
- 少し高くても、素材や製法にこだわったパンを楽しみたい人のための店なのか。
同じ「パン屋」でも、誰にどんな価値を提供するのかによって、商品も価格も立地も店づくりも変わります。
これは、どんな業種でも同じです。
「ホームページを作ります」
というWEBデザイナーと、
「良い商品を持っているのに、その魅力がうまく伝わっていない事業者に、価値が伝わるホームページを作ります」
というWEBデザイナー。
同じ仕事をしているように見えても、後者の方が「誰に、どんな価値を提供しているのか」がずっと分かりやすくなります。
商品名やサービス名を説明することと、事業そのものを説明することは、少し違うのです。
お客様が求めているのは、商品そのものだけではない
セミナーでは、「喉が渇いた人が水を買う」というシンプルな例を使いました。

その人は確かに「水」を買っています。
でも、本当に欲しいものは水そのものではなく、
「喉の渇きを癒したい」
という状態です。
当たり前の話のようですが、これを自分の商品やサービスに置き換えると、意外と難しくなります。
例えば、カフェのお客様が求めているのは、コーヒーだけでしょうか。
「一人で少し落ち着きたい」
「仕事の合間に気持ちを切り替えたい」
「友人とゆっくり話したい」
そういう時間を求めているのかもしれません。
宿泊施設でも同じです。
部屋と食事を提供することはもちろん大切ですが、お客様が求めているものは、
「家族で思い出をつくりたい」
「忙しい日常から少し離れたい」
「その土地ならではの食や景色を楽しみたい」
といった体験かもしれません。
商品や設備だけを見ていると、他社との違いが見えにくくなります。
一方で、
「お客様は、ここを利用することでどうなりたいのだろう」
と考えると、自分たちが提供している価値が違って見えてきます。

「やりたい・できる・求められている」を重ねて考える
私は、事業の核を考えるとき、
- やりたいこと
- できること
- 求められていること
この3つを重ねて考えることが大切だと思っています。
「やりたいこと」は、自分自身の思いやテーマです。
なぜこの仕事をしたいのか。
どんな商品を作りたいのか。
どんな人に喜んでもらいたいのか。
創業するうえで、ここはとても大切です。
次に「できること」。
これまでの仕事の経験、知識、技術、人とのつながりなどです。
長く仕事をしてきた方ほど、自分にとって当たり前になっていて、その価値に気づいていないこともあります。
そして3つ目が、「求められていること」です。
ここだけは、自分の中だけで考えていても分かりません。
お客様は何に困っているのか。
何を不便に感じているのか。
どうなりたいと思っているのか。
外側から見る必要があります。
この3つが重なるところに、事業の核ができてくると考えています。

「やりたい」だけでも、「売れそう」だけでも難しい
創業時には、このバランスが意外と難しいものです。
「やりたいこと」が強すぎると、
「自分はこれを提供したい」
という話だけになり、お客様が何を求めているのかが後回しになることがあります。
反対に、
「今、これが流行っているから」
「この分野は儲かりそうだから」
というところから事業を考えると、今度は自分自身がその仕事を続ける意味を感じられなくなるかもしれません。
「できること」だけを基準にしても、
「今までやってきたから、これを仕事にしよう」
という発想に留まってしまうことがあります。
どれも間違いではありません。
ただ、長く続けられる事業にするのであれば、
自分がやりたい。
自分だからできる。
そして、お客様が求めている。
この重なりを探していく必要があります。
もちろん、創業時からきれいに重なる必要はありません。
むしろ最初は仮説でよいと思います。
実際にお客様と話してみると、
「思っていたところとは違う部分を評価された」
「このお客様層から思った以上に反応があった」
ということはよくあります。
そこから少しずつ修正していけばよいのです。
想いやストーリーも、立派な「価値」になる
前回の記事でも触れましたが、事業者の想いや、商品が生まれた背景にあるストーリーも大切です。
なぜ、この事業を始めたのか。
なぜ、この商品にこだわっているのか。
どんな経験があって、このサービスを提供しているのか。
特に小さな会社や個人事業の場合、
「誰が、どんな思いでやっているのか」
そのものが選ばれる理由になることもあります。
地域の商品や観光の仕事などでは、特にそうだと思います。
ただ、ここでも意識したいのは、お客様とのつながりです。
例えば、
「昔からこの地域が好きで、この地域の良さを伝えたくて始めました」
という思いがあったとします。
それだけでも素敵なストーリーですが、
「だからこそ、この地域でしか味わえない時間を、お客様に届けたい」
までつながると、お客様にとっての意味が見えてきます。
作り手の思いや苦労を消す必要はありません。
むしろ、しっかり伝えた方がよいと思います。
そのうえで、
その思いやこだわりが、お客様にとってどんな価値につながっているのか
まで考えてみる。
これが大切です。
自分が思う「強み」と、お客様が感じている「強み」は違うことがある
これは、創業したばかりの方だけの話ではありません。
すでに長く事業をしている会社を支援していても、よく感じます。
経営者が考えている自社の強みと、お客様が評価しているところが違うことがあります。
例えば、宿泊施設で、
経営者は「料理の品質がうちの強みだ」と考えている。
でも実際に口コミを見ると、
「スタッフの方が親切だった」
「子どもにも優しく対応してくれたので、また来たい」
という声がたくさんある。
あるいは、経営者は「技術力」を評価されていると思っているのに、お客様は、
「相談しやすい」
「困ったときにすぐ対応してくれる」
ところを評価している。
こういうことは珍しくありません。
自分たちの価値は、自分たちだけで決めるものではないのだと思います。
お客様との関係の中で初めて見えてくる価値もあります。
だからこそ、今ある商品やサービスを説明するだけではなく、
「お客様は、自分たちの何に価値を感じているのだろう」
と、ときどき考えてみることが大切です。
事業計画の数字を考える前に、整理しておきたいこと
事業計画というと、売上目標や経費、資金調達といった数字を思い浮かべる方が多いかもしれません。
もちろん、数字はとても大切です。
このシリーズでも、この後、必要売上や価格、お金の流れについて取り上げていきます。
ただ、その数字を考える前に、
誰に、どんな価値を届ける事業なのか
が整理されていなければ、売上計画にもなかなか根拠を持てません。
誰がお客様なのか分からなければ、何人来てもらえるのかも考えにくい。
提供する価値が曖昧であれば、価格も決めにくい。
つまり、「誰の何を解決するのか」を考えることは、キャッチコピーを作るためだけではありません。
その後の価格設定や集客、売上計画につながる、経営そのものの出発点です。
まず、一文で書いてみる

一度、自分の事業をこんな形で書いてみてください。
「私は、○○に困っている/○○を望んでいる人に、○○を提供して、○○の状態にします。」
きれいな文章でなくて構いません。
書いてみると、
「誰に、がちょっと曖昧だな」
「提供する商品の説明ばかり書いているな」
「利用した後にどうなるのかは考えていなかったな」
といったことに気づくと思います。
最初は仮説で十分です。
言葉にしてみて、お客様と接して、違っていたら変える。
そうやって少しずつ、自分たちの事業の核を見つけていけばよいと思います。
まとめ
創業するとき、自分の「やりたいこと」は大切です。
これまで身につけてきた「できること」も、大きな財産です。
商品やサービスに込めた想いやストーリーも、事業の魅力になります。
ただ、それを商売として続けていくためには、
お客様から「求められていること」と重ねていく必要があります。
自分は何をやりたいのか。
自分だから何ができるのか。
そして、それは誰にとって、どんな価値になるのか。
この3つを行ったり来たりしながら考えていく。
そこに、事業の核ができてくるのだと思います。
まずは、
「私の事業は、誰の何を解決する事業なのか」
一度、言葉にしてみてください。
次回は、この中の「誰」をもう少し具体的にしていきます。
テーマは、
「最初の10人のお客様はどこから来るのか」
です。
「ターゲットを決めましょう」と言われても、なかなかイメージしにくいものです。
そこで次回は、いきなり大きな市場を考えるのではなく、まず自分の商品やサービスを選んでくれそうな「最初の10人」から考えてみたいと思います。


