【宿泊業の経営改善シリーズ 第0回】宿泊業の経営改善は、なぜ「全体」で考える必要があるのか

〜集客、利益、組織、資金繰り。そして「何かが起きても続けられる経営」へ〜

2026年7月28日、熊本で大きな地震が発生しました。

今回の地震で被災された皆さまに、心よりお見舞い申し上げます。

私が支援している観光・宿泊事業者の中にも、建物や設備への被害だけでなく、予約のキャンセルなど大きな影響を受けた施設があります。

一方で、今回改めて感じたことがあります。

それは、

宿泊業の経営は、平常時の売上や集客だけを考えていればよいわけではない

ということです。

地震だけではありません。

豪雨、台風、大雪、感染症、交通機関の運休、原材料価格の高騰、人手不足、設備トラブル。

経営者が予想していなかったことは、ある日突然起こります。

今回の地震は熊本で発生しましたが、日本で事業を行っている以上、災害は決して特定の地域だけの問題ではありません。

だからこそ私は、宿泊業の経営改善について、

「もっと集客しましょう」

「OTAを見直しましょう」

「人件費を削減しましょう」

といった、一つの課題だけを切り取って考えるのでは不十分だと思っています。

必要なのは、

売上、利益、現場、組織、財務、そして事業を続ける力まで含めて、経営全体を見ること。

このシリーズでは、そんな宿泊業の経営について考えていきたいと思います。


宿泊業は、そもそも経営が複雑です

旅館やホテルの仕事を分解してみると、非常に多くの機能があります。

宿泊サービスだけではありません。

料理を提供するのであれば飲食業でもあります。

食材の仕入れ、調理、原価管理が必要です。

客室を販売するためには、OTAや自社サイト、SNS、Googleマップなどを活用したマーケティングも必要です。

当然ながら、接客、清掃、予約管理、採用、教育、シフト管理もあります。

さらに経営者は、

  • 売上
  • 原価
  • 人件費
  • 借入金
  • 設備投資
  • 資金繰り

まで考えなければなりません。

つまり宿泊業は、一つの会社の中に、いくつもの業種と経営機能が入っているようなものです。

だからこそ難しい。

そして、どこか一つだけを改善しても、必ずしも経営全体が良くなるとは限りません。


「お客様を増やせば解決する」とは限らない

宿泊施設の支援に入ると、

「もっと予約を増やしたい」

という相談をいただくことがあります。

もちろん、予約を増やすことは大切です。

ただ、詳しく数字を見ていくと、本当の課題が別のところにあることも少なくありません。

例えば、

稼働率は高いのに、利益が残っていない。

客室単価は上がったものの、料理原価や人件費も上がっている。

予約は取れるのに、人手不足で客室を売り止めている。

OTAから予約は入るものの、手数料負担が大きくなっている。

設備投資をした結果、返済負担が重くなっている。

こうしたケースです。

この状態で、さらに集客だけを強化するとどうなるでしょうか。

売上は増えても、現場が疲弊したり、お金が残らなかったりする可能性があります。

だから私は、

「売上を増やすこと」と「経営を良くすること」は、必ずしも同じではない

と考えています。


宿泊業では「部分最適」が起こりやすい

宿泊業の経営改善で難しいのが、この点です。

例えば、

稼働率を上げるために料金を下げる。

結果として予約は増えたものの、利益は減る。

人件費を抑える。

結果としてスタッフが足りなくなり、サービス品質が低下する。

広告費を増やす。

予約は増えたものの、受け入れる現場が回らなくなる。

設備をリニューアルする。

施設の魅力は高まったものの、借入返済で資金繰りが苦しくなる。

それぞれの判断だけを見れば、間違っているとは限りません。

問題なのは、

一つを動かすと、別のところも動く

ということです。

だから宿泊業では、経営全体を見ながら改善を進める必要があります。


私が考える宿泊業経営の4つの視点

これまで宿泊施設の経営支援を行う中で、私は経営を大きく4つの視点で整理しています。

1.売上をつくる

まずは、お客様に選んでいただかなければ事業は成り立ちません。

誰に泊まってほしいのか。

どのような価値を提供するのか。

どのOTAを使うのか。

自社予約をどう増やすのか。

どの曜日、どの時期に、いくらで販売するのか。

稼働率だけではなく、

客室単価と稼働率の両方を見ながら売上をつくる

ことが重要です。


2.利益を残す

売上が増えても、お金が残らなければ経営は続きません。

料理原価は適正か。

OTA手数料はいくらかかっているのか。

人件費とのバランスはどうか。

光熱費はどの程度増えているのか。

どのプランが本当に利益を生んでいるのか。

「売れたかどうか」だけではなく、

その予約からいくら利益が残ったのか

を見る必要があります。


3.現場を回す

宿泊業は、人がサービスを提供する産業です。

どれだけ良い販売戦略をつくっても、現場が回らなければ続きません。

採用

教育

役割分担

業務改善

DX

評価制度

スタッフ同士のコミュニケーション

こうしたことは、一見すると売上とは別の問題に見えます。

しかし実際には、

スタッフが働き続けられる環境をつくることが、サービス品質につながり、その結果としてクチコミやリピートにもつながります。


4.事業を続けられる状態をつくる

そして、今回の地震を経験して、これまで以上に重要だと感じているのがこの部分です。

利益が出ていることと、

会社が続けられることは同じではありません。

宿泊業は設備産業です。

建物、温泉設備、ボイラー、空調、厨房、エレベーターなど、多くの設備を抱えています。

同時に、借入金を抱えている施設も少なくありません。

そこへ突然、大量のキャンセルが発生すれば、売上は短期間で大きく変わります。

一方で、人件費や借入返済などの支払いは続きます。

そのとき重要になるのが、

  • 手元資金はどのくらいあるか
  • 今後何カ月資金が持つか
  • 金融機関へ何を説明するか
  • どの支払いを優先するか
  • どのタイミングで販売を再開するか
  • お客様へどのように情報を伝えるか

といったことです。

これは「災害対策」だけの話ではありません。

感染症でも、設備故障でも、取引先の問題でも同じです。

想定外のことが起きたときにも事業を続けられる状態を、平常時からつくっておく。

これも経営改善の一部だと私は考えています。


「攻め」と「守り」を分けない

経営改善というと、

売上を伸ばすことを「攻め」。

資金繰りやコスト管理を「守り」。

と表現することがあります。

分かりやすい考え方ではあります。

ただ、宿泊業ではこの二つはかなり密接につながっています。

例えば、料金設定。

単価を上げれば売上は増えますが、お客様に選ばれなければ予約は減ります。

価格を下げれば予約は増えるかもしれませんが、利益が残らなくなる可能性があります。

設備投資も同じです。

客室を改装すれば単価を上げられるかもしれません。

しかし、そのために多額の借入をすれば、毎月の返済額は増えます。

「売る」「儲ける」「投資する」「返す」。

全部つながっています。

だからこそ宿泊業では、

経営全体を一つの流れとして見ること

が大切になります。


平常時に経営を整える意味

災害が起きてからできることには限界があります。

これは今回、私自身も改めて感じたことです。

予約状況が分かっている。

固定費が分かっている。

毎月の返済額が分かっている。

資金繰りが見えている。

お客様への情報発信手段が整っている。

金融機関との関係ができている。

こうしたことは、何も起きていないときには当たり前に見えるかもしれません。

しかし、何かが起きたときには大きな差になります。

経営改善というと、

「業績が悪くなってから行うもの」

と思われることがあります。

私はそうではないと思っています。

経営が安定しているときに経営を整えておくことこそ、最大の経営改善かもしれません。


このシリーズでお伝えしていくこと

このシリーズでは、宿泊業の経営について、一つずつテーマを取り上げていきます。

難しい経営理論を説明することが目的ではありません。

実際の宿泊施設の経営者が、

「うちの場合はどうだろう?」

と自社を振り返ることができる内容にしたいと思っています。

例えば、

稼働率は何%あればよいのか。

ADRやRevPARはどう見ればよいのか。

料金はいくらに設定すればよいのか。

OTAはどう使い分ければよいのか。

料理原価はどう考えるのか。

売上が増えているのに、なぜお金が残らないのか。

人手不足の中で、どこまで客室を販売すべきなのか。

設備投資をするかどうか、どう判断するのか。

そして、突然売上が減ったときにどう対応するのか。

こうした宿泊業の現場で実際に起きている問題を、一つずつ整理していきます。


最後に

宿泊業は、決して簡単な商売ではありません。

お客様を集めるだけでもだめ。

売上を増やすだけでもだめ。

コストを削減するだけでもだめ。

人を採用するだけでもだめ。

数字だけでも、現場だけでもうまくいきません。

だからこそ私は、

宿泊業には「経営全体を見る」ことが必要だ

と考えています。

売上をつくる。

利益を残す。

現場を回す。

そして、何かが起きても事業を続けられるようにする。

この4つを少しずつ整えていく。

その積み重ねが、強い宿泊施設をつくっていくのではないでしょうか。

このシリーズが、自社の経営を少し立ち止まって考えるきっかけになれば幸いです。


ご相談について

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