【宿泊業の経営改善シリーズ 第1回】まず何を見る?宿泊施設の経営を5つの数字で把握する

第0回の記事はこちら
宿泊施設の経営相談をしていると、
「売上は毎月見ています」
という経営者は多くいらっしゃいます。
もちろん、売上は大切です。
ただ、売上だけを見ていると、
なぜ売上が増えたのか。
なぜ減ったのか。
今の売り方が本当に良いのか。
までは、なかなか分かりません。
例えば、前年より売上が増えていたとしても、
- 料金を下げて販売室数を増やした結果なのか
- 宿泊者数は変わらず、単価が上がった結果なのか
- 販売できる客室数そのものが増えたのか
によって、次に取るべき対策は変わります。
宿泊業の経営改善では、まず現在の状態を数字で把握することが大切です。
とはいえ、最初からたくさんの指標を見る必要はありません。
今回は、私が宿泊施設の状況を確認するときに、まず見ることが多い数字について整理してみます。
エクセルで作成した分析シートも無料ダウンロードできますので、ぜひ活用してください!

※メールアドレスなどの登録は不要です。
※20室・年間宿泊売上約2.5億円の架空の旅館データを入力したサンプル版です。
※数値を自施設のものに入れ替えると、稼働率・ADR・RevPAR・前年比較・グラフが自動更新されます。
まず見たい5つの数字
最初に確認したいのは、次の5つです。
- 宿泊売上
- 販売室数
- 稼働率
- ADR(エーディーアール)
- RevPAR(レブパー)
これに、旅館では
一人当たり売上高
も加えて見ておくと、さらに実態が分かりやすくなります。
ADRやRevPARという言葉を見ると、少し難しく感じるかもしれません。
ただ、計算そのものはそれほど複雑ではありません。
大切なのは、用語を覚えることよりも、
「この数字が動いたということは、経営のどこが変わったのか」
と考えることです。
1.宿泊売上
まずは宿泊売上です。
例えば、
4月 1,880万円
5月 2,480万円
6月 1,382万円
というように、月別に確認します。
できれば、
- 前年同月
- 前月
- 予算
と比較できるようにしておくと変化が分かりやすくなります。
ただし、
「売上が増えた=経営が良くなった」
とは限りません。
売上を増やすために大幅な値下げをし、販売室数を増やしていたとすれば、現場の負担が増えている一方で、利益はあまり増えていないかもしれません。
逆に、販売室数が多少減っていても、高い単価で販売できていれば、売上や利益が伸びているケースもあります。
だからこそ、売上はほかの数字と組み合わせて見ます。
2.販売室数
次に確認したいのが、
実際に何室販売したのか
です。
例えば同じ月間売上2,000万円でも、
400室販売して2,000万円なのか。
500室販売して2,000万円なのか。
では、経営の状態はかなり違います。
400室であれば、1室当たり5万円。
500室であれば、1室当たり4万円です。
売上だけ見ていると、この違いは分かりません。
また、販売室数を月別だけではなく、日別・曜日別で蓄積していくと、
「土曜日は埋まるけれど金曜日が弱い」
「日曜日の販売が想像以上に少ない」
「繁忙期でも平日の稼働が低い」
など、自施設の特徴も見えてきます。
3.稼働率
稼働率は、
販売室数 ÷ 販売可能室数
で計算します。
例えば、20室の旅館が30日営業していれば、
20室 × 30日 = 600室泊
が基本的な供給量です。
このうち420室を販売した場合、
420 ÷ 600 = 70%
です。
この場合、客室稼働率は70%となります。
「20室ある=毎日20室売れる」とは限らない
ここは、実際の支援現場ではかなり重要です。
例えば20室ある旅館でも、
- 改装中で2室使えない
- 空調故障で一定期間販売できない
- 人手不足のため平日は15室までしか販売しない
といったことがあります。
そのため、今回作成した分析シートでは、
販売可能室数
= 室数 × 営業日数 − 販売除外室数
として計算しています。
例えば、20室・営業日29日なら、
20室 × 29日 = 580室泊
です。
そこから、工事などで10室泊を販売しなかったのであれば、
580 − 10 = 570室泊
が実際の販売可能室数になります。
単純に総客室数だけで稼働率を計算するよりも、実態に近い数字になります。
稼働率が高ければ良いとは限らない
宿泊業では、
「空室をなくしたい」
「できれば満室にしたい」
という意識が強くなりがちです。
もちろん、空室を販売することは大切です。
ただし、
稼働率が高ければ、それだけで経営が良いとは限りません。
今回作ったサンプルでは、20室の旅館を想定しています。
例えば2026年2月は、
- 稼働率:約64%
- ADR(平均客室単価):約44,500円 ※販売した客室1室あたりの単価
一方、2026年8月は、
- 稼働率:約90%
- ADR:約56,500円
という設定です。
8月は繁忙期として、稼働率も単価も高い状態です。
しかし、現実の経営では、
「稼働率90%を年間通して目指す」
ことが正しいとは限りません。
安売りをして90%にするのと、適正な価格で70%を確保するのとでは意味が違います。
この点は、次回の記事で詳しく取り上げます。
4.ADR
ADR(エーディーアール)とは、
Average Daily Rate
の略で、日本語では平均客室単価などと呼ばれます。
計算式は、
宿泊売上 ÷ 販売室数
です。
例えば、
宿泊売上 1,880万円
販売室数 400室
であれば、
1,880万円 ÷ 400室 = 47,000円
です。
つまりADRは47,000円です。
今回作ったサンプルの2025年4月も、この数字になっています。
ADRを見ることで、
「最近、単価が上がっているのか」
「値下げして販売していないか」
が分かります。
最近は、食材、人件費、光熱費など、さまざまなコストが上がっています。
その中で、数年前と同じ価格で販売を続けていると、当然ながら利益は圧迫されます。
だからこそ、
何室売ったかだけではなく、いくらで売ったか
を見る必要があります。
5.RevPAR
次がRevPARです。
読み方は「レブパー」。
Revenue Per Available Roomの略で、
販売可能客室1室あたりの売上
を表します。
計算式は、
宿泊売上 ÷ 販売可能室数
です。
また、
ADR × 稼働率
でも求められます。
例えば、
ADR 47,000円
稼働率 約72%
であれば、
RevPARは約33,800円となります。
RevPARの良いところは、
単価と稼働率を一緒に見ることができる
点です。
稼働率だけでは分からないことがある
例えば、次のような2つの月があるとします。
A月
稼働率 80%
ADR 40,000円
RevPARは、
32,000円です。
B月
稼働率 70%
ADR 50,000円
RevPARは、
35,000円です。
稼働率だけを見るとA月の方が良く見えます。
しかし、販売可能客室1室あたりの売上を見ると、B月の方が高い。
このように、
一つの数字だけで経営を判断すると、見誤ることがあります。
だからこそ、
宿泊売上
販売室数
稼働率
ADR
RevPAR
を組み合わせて見ることが大切です。
旅館では「一人当たり売上高」も見ておきたい
特に旅館では、
一人当たり売上高
も重要です。
計算式は、
宿泊売上 ÷ 宿泊人数
です。
例えば、
宿泊売上 1,880万円
宿泊人数 880人
であれば、
一人当たり売上高は約21,400円です。
旅館の場合、
「1室5万円」
と聞いても、
1名利用なのか。
2名利用なのか。
3名利用なのか。
で意味が変わります。
そのため今回の分析シートでは、
1室当たり宿泊人数
も自動計算するようにしています。
実際に24か月分を並べてみる
数字は、単月だけでは分かりにくいものです。

そこで今回、20室・年間宿泊売上約2億5,000万円の旅館を想定して、架空の24か月分のサンプルデータを作りました。
2025年の宿泊売上は約2億4,300万円。
2026年は約2億5,900万円。
という設定です。
繁忙期には、
- 稼働率が上がる
- ADRも上がる
一方で、2月や6月などは稼働率が下がるようにしています。
あくまで架空の数字ですが、こうして月別に並べることで、
「売上が高い月は、稼働率が高いのか、ADRが高いのか」
「前年より売上が増えた理由は何か」
「繁忙期と閑散期で、どの程度単価差をつけているか」
が見えやすくなります。
Excelでは、このくらいから始めましょう(無料Excelシート)
今回作成したシートでは、次の項目を入力します。

- 年
- 月
- 休業日数(施設メンテナンスなどで休業した日数を記載)
- 室数(当館の部屋数を入力)
- 販売除外室数(販売しない部屋数を入力)
- 宿泊売上
- 宿泊人数
- 販売室数
すると、
- 月日数
- 営業日数
- 販売可能室数
- 稼働率
- ADR
- RevPAR
- 一人当たり売上高
- 1室当たり宿泊人数
が自動計算されます。
さらに前年同月との比較と、月別推移のグラフも自動表示されます。
最初から高度なシステムを導入しなくても、このくらいの表を毎月残すだけで、経営の見え方はかなり変わります。
※メールアドレスなどの登録は不要です。
※20室・年間宿泊売上約2.5億円の架空の旅館データを入力したサンプル版です。
※数値を自施設のものに入れ替えると、稼働率・ADR・RevPAR・前年比較・グラフが自動更新されます。
数字を見る目的は「管理すること」ではない
ここは大切だと思っています。
Excelをきれいに作ることが目的ではありません。
毎月たくさんの数字を入力することが目的でもありません。
数字を見る目的は、
「なぜ、こうなったのか」を考えること
です。
例えば売上が前年より10%減った。
そこで、
「今年は悪いね」
で終われば何も変わりません。
稼働率が落ちたのか。
ADRが下がったのか。
販売できる客室数が減ったのか。
特定の曜日だけ弱くなっているのか。
そこまで見ることで、初めて対策につながります。
稼働率が問題なら、販売方法や集客を考える。
ADRが問題なら、価格設定や商品内容を考える。
販売可能室数が問題なら、人員配置や業務改善を考える。
つまり、
数字は経営判断の入口です。
経営者の「感覚」も大切です
私は、数字だけですべて判断すればよいとは思っていません。
長年宿泊施設を経営している方と話していると、
「今年は予約の動きが遅い」
「最近、直前予約が増えている」
「以前より夫婦のお客様が増えた」
といった話を聞くことがあります。
こうした感覚は、とても大切です。
むしろ、現場を毎日見ている経営者だからこそ分かることがあります。
ただ、その感覚に数字を組み合わせると、判断がさらにしやすくなります。
例えば、
「平日が弱い気がする」
のであれば、曜日別稼働率を見る。
「最近、安いプランばかり売れている気がする」
のであれば、ADRを見る。
「忙しい割に売上が増えていない」
のであれば、販売室数とADRを見る。
感覚を数字で確かめる。
まずはそのくらいからで十分だと思います。
最初から完璧でなくてもいい
支援の現場では、
「うちは数字をちゃんと取れていないので……」
と言われることがあります。
でも、過去の数字が完璧でなくても構いません。
今月から始めれば、来月には比較できます。
半年続ければ、半年分のデータになります。
1年続ければ、翌年から前年同月との比較ができます。
大切なのは、
これから経営判断に使える数字を残していくこと
です。
まずは、この5つから
宿泊施設には、たくさんの経営指標があります。
人件費率。
料理原価率。
OTA比率。
自社予約比率。
リピート率。
クチコミ評価。
もちろん、こうした数字も大切です。
ただ、最初から全部を見る必要はありません。
まずは、
宿泊売上
販売室数
稼働率
ADR
RevPAR
この5つを毎月確認する。
旅館であれば、そこに一人当たり売上高も加えてみる。
それだけでも、自施設の経営はかなり見えやすくなります。
そして、この数字を見ていると、多くの経営者が次の疑問を持つと思います。
「結局、稼働率は何%くらいあればいいの?」
次回は、
稼働率を上げれば本当に儲かるのか
について考えます。
満室を目指すことは本当に正しいのか。
宿泊業で「稼働率だけを追わない」理由を整理します。
実際に数字を入力してみると、
「この稼働率は高いのか低いのか」
「ADRをどこまで上げられるのか」
「売上は伸びているのに、なぜ利益が残らないのか」
といった疑問が出てくることがあります。
宿泊施設の経営は、数字だけを見ても判断できない部分があります。施設の立地や客層、人員体制、設備、借入状況なども含めて考える必要があります。
自施設の数字を整理したうえで、改善の方向性を一緒に考えたい場合は、宿泊業の経営改善支援についてお気軽にご相談ください。

