【宿泊業の経営改善シリーズ 第4回】「うちの宿の良さ」は誰が決める? クチコミから「選ばれる理由」を見つける

「うちの宿の強みは料理です」「温泉には自信があります」。
宿泊施設の経営者と話していると、こうした言葉を聞くことがあります。長年料理に力を入れてきた、温泉を大切に守ってきた、接客には自信がある。経営者として、自分たちの宿の良さをそう捉えているわけです。
もちろん、長年大切にしてきたものには意味があります。ただ、実際にお客様のクチコミを確認してみると、宿側が考えている強みと、お客様が実際に価値を感じているところが少し違っていることがあります。
例えば、料理に力を入れている宿なのに、クチコミでは「スタッフの対応が丁寧だった」「静かに過ごせた」「清掃が行き届いていた」といった声が目立つことがあります。反対に、経営者自身は特別だと思っていなかったことが、お客様から高く評価されている場合もあります。
ここで大切なのは、自分たちが良いと思っているところと、お客様が実際に評価しているところは、必ずしも同じではないということです。
前回の第3回では、「宿の価値と価格を合わせる」というテーマを取り上げました。では、その「宿の価値」はどのように確認すればよいのでしょうか。
今回は、私が実際の宿泊施設支援でも行っているOTAのクチコミ評価や競合比較を使いながら、自分たちの宿が何を評価され、どのような強みを持っているのかを考えてみます。
クチコミは「評判を見るもの」だけではない
クチコミというと、「総合評価が4.5だった」「悪いクチコミが入った」「返信しなければならない」といった、評判管理のためのものという印象が強いかもしれません。
もちろん、それも重要です。ただ、私は宿泊施設の支援では、クチコミをもう少し広い意味で見ています。
それは、実際に宿泊したお客様が、何に価値を感じたのかを確認するための経営資料として使うということです。
経営者やスタッフは毎日その宿で働いています。そのため、地元の食材を使った料理や、チェックイン時の細かな案内、客室の丁寧な清掃などが、いつの間にか当たり前になっています。しかし、初めて訪れたお客様にとっては、その当たり前が強く印象に残ることがあります。
逆に、宿側では非常に力を入れているのに、お客様の評価にはあまり表れていない部分もあります。
その場合は、提供しているもの自体を見直す必要があるのか、それとも、その良さが十分伝わっていないのかを考える必要があります。
クチコミは、その違いを知るための有効な材料になります。
総合点から一歩進んで、項目別評価を確認する
OTAのクチコミを確認する際、まず総合点を見れば、自施設がどの程度評価されているかという全体感は把握できます。
ただし、今回考えたいのは、総合点が高いか低いかということではありません。
大切なのは、その次です。
OTAによっては、総合点だけでなく、部屋、風呂、朝食、夕食、接客・サービス、清潔感など、項目別の評価を見ることができます。
ここまで分解すると、似たような総合点の施設でも、評価されている内容が違うことが分かります。
例えば、自施設は夕食や接客の評価が高く、競合Aは部屋や風呂が高い。競合Bは突出した項目はないものの、全体的にバランスが良い。
こうした違いを見ることで、それぞれの宿がどの部分でお客様から評価されているのかが見えてきます。
私は、項目別評価を比較する際、レーダーチャートにすることがあります。数字を表で並べるだけでも比較できますが、図にすると施設ごとの特徴が「形」として分かりやすくなります。

すべての項目で競合に勝つ必要はない
項目別評価を比較すると、「部屋の評価が競合より低いから改装しなければ」「風呂の評価をもっと上げなければ」と考えてしまうかもしれません。
しかし、私はすべての項目で競合を上回る必要はないと思っています。
例えば、20室程度の小規模旅館が大型旅館と同じ設備を持つことは現実的ではありません。
大浴場を改修する、客室を全面改装するとなれば、多額の投資が必要です。その投資を価格や売上に反映できなければ、かえって経営を苦しくしてしまう可能性もあります。
一方で、すでに料理や接客が高く評価されているのであれば、その部分をさらに伸ばす方法があります。
料理の見せ方を工夫する、プラン内容を見直す、お客様が評価している接客の特徴をホームページで伝える。こうした方法なら、大きな設備投資をせずに取り組めることもあります。
もちろん、清潔感や安全性など、一定の水準を維持しなければならない部分は改善が必要です。そのうえで、弱いところをすべて平均まで引き上げるだけでなく、すでに評価されている強みを伸ばすという視点も持ちたいところです。
クチコミ評価と宿泊料金を組み合わせてみる
項目別評価から自施設の特徴を確認したら、次に価格との関係を見てみます。
実際の支援では、自施設と競合施設について、クチコミの総合点と、最低価格・おすすめ価格・最高価格を整理して比較することがあります。
ここでは総合点を施設全体の評価を表す指標として使います。ただし、「4.5以上は高評価」といった基準を設けるのではありません。
同じ市場にある施設を並べて、それぞれの評価と販売価格がどのような関係にあるのかを見ることが目的です。
例えば、次のような比較です。
| 施設 | 総合点 | 最低価格 | おすすめ価格 | 最高価格 |
|---|---|---|---|---|
| 自施設 | 4.7 | 26,000円 | 32,000円 | 45,000円 |
| 競合A | 4.6 | 30,000円 | 38,000円 | 52,000円 |
| 競合B | 4.5 | 28,000円 | 35,000円 | 48,000円 |
| 競合C | 4.8 | 34,000円 | 42,000円 | 60,000円 |
※説明用の架空データです。
この例では、自施設は競合AやBより総合点が高いものの、おすすめ価格や最高価格は低くなっています。
これだけで「値上げすべき」とは言えませんが、「お客様からの評価に対して、現在の価格は適切なのだろうか」という疑問を持つきっかけにはなります。

宿泊料金は客室タイプ、料理、曜日、繁忙期などによって変わります。また、価格差には設備や立地などの理由もあります。そのため、できるだけ宿泊日、人数、食事、客室条件などを揃えて比較することが重要です。ここで扱うOTAの掲載価格は、実際に販売できた客室の平均単価であるADRとは異なることにも注意が必要です。
この比較で得たいのは、価格改定の結論ではありません。「なぜ、この施設はこの評価で、この価格なのだろう」という問いを持つことです。
そこから自施設と競合の違いをもう一度確認することで、価格を考える材料が増えていきます。
点数の理由は、実際のクチコミ本文で確認する
ここまで数字を中心に見てきましたが、点数だけでは分からないこともあります。
例えば、自施設の夕食評価が4.9だったとします。しかし、それだけでは「料理が評価されている」ということしか分かりません。
実際のクチコミ本文を読むと、「地元の魚が新鮮だった」「量が多すぎず、最後まで楽しめた」「一品一品が丁寧だった」といった具体的な理由が見つかるかもしれません。
ここまで確認すると、「料理が強み」という漠然とした状態から、「地元食材が評価されている」「量より質が喜ばれている」「丁寧な料理が印象に残っている」といったところまで具体化できます。
一方、「料理はおいしかったが、提供に時間がかかった」というクチコミもあるでしょう。この場合、料理そのものは評価されていて、課題は提供方法や人員配置にあるのかもしれません。
クチコミは良い評価だけを見るものではありません。何が評価されていて、どこに改善の余地があるのかを分けて考えることで、経営判断につながります。

なお、クチコミは宿泊後のお客様の感想です。予約前に何を決め手として選んだのかを、すべて説明しているわけではありません。それでも、お客様が宿泊後に価値を感じた部分を確認することは、今後の販売を考えるうえで有効な手がかりになります。
競合は「近くの宿」だけで選ばない
評価や価格を比較するときには、誰を競合とするかも重要です。
同じ地域にある宿が、必ずしも直接の競合とは限りません。例えば、一人40,000円前後で夫婦やカップルなどの少人数旅行を中心にしている旅館と、一人15,000円前後で団体旅行を中心にしている大型旅館では、同じ温泉地にあっても、お客様が求めるものは違うかもしれません。
比較するときには、価格帯、客室タイプ、料理、温泉、客層、滞在目的などを考えます。つまり、「近くにある宿」ではなく、「お客様が自施設を予約するとき、一緒に比較しそうな宿」を見るということです。
また、評価点数だけでなく、クチコミ件数や投稿時期にも注意が必要です。客室改装や料理内容の変更、スタッフ体制の変化などがあれば、最近の評価が以前と異なっていることもあります。
比較する条件を揃え、数字の背景も確認する。そうすることで、分析結果を経営に使いやすくなります。
お客様から評価されている価値を、販売に生かせているか
クチコミを分析して「料理が評価されていますね」で終わってしまっては、経営は変わりません。
例えば、お客様から「地元の魚がおいしかった」「量より質が良かった」という声が多く寄せられているとします。しかし、OTAのプラン名が「スタンダード1泊2食プラン」だけでは、その魅力が十分伝わっていないかもしれません。
もし実際の料理内容に合っているのであれば、「地元の旬を少しずつ楽しむ、大人の会席プラン」のように表現した方が、宿の特徴が伝わりやすくなるでしょう。
また、料理が評価されているのに、OTAの写真には客室ばかりが掲載されている。
静かに過ごせることが評価されているのに、ホームページでは宴会利用を大きく打ち出している。
こうした場合、宿泊後のお客様が感じている価値と、予約前のお客様に伝えている内容が一致していない可能性があります。
クチコミ分析の目的は、点数を0.1上げることだけではありません。お客様が評価している部分を確認し、その価値を商品、プラン名、写真、説明文、そして宿泊料金に反映していくことです。
宿の中にはすでに価値がある。お客様もそれを評価している。しかし、その価値を十分に販売に生かせていない。
そんな状態になっていないか、一度確認してみる価値はあると思います。
次回は、見つけた強みを「商品」に変える
今回、項目別評価やクチコミ本文、競合との価格比較から、自施設の特徴を確認する方法を考えました。
ただ、「うちは料理が強いですね」「接客が評価されていますね」というところで終わってしまっては、実際の売上や利益にはつながりません。
次に必要なのは、その強みを商品に変えることです。
誰に泊まってほしいのか。そのお客様にどんな時間を過ごしてほしいのか。料理、客室、温泉、接客をどのように組み合わせ、プラン名や写真、価格に反映していくのか。
次回、第5回では、「良いところ」で終わらせない。宿の強みを、選ばれる商品・プランに変える方法を考えます。
自分たちの宿の強みが分からなくなっている場合は
宿を長く経営しているほど、自分たちの良さが分からなくなることがあります。毎日行っていることだから特別だと思わない。一方、お客様はそこに価値を感じている。そういうことは珍しくありません。
自施設と競合の項目別評価、価格帯、実際のクチコミ内容などを整理すると、自施設が何を評価され、どの部分をもっと伝えるべきなのかが少しずつ見えてきます。
私は宿泊施設の経営支援で、こうしたお客様の評価に加えて、売上・利益・客室稼働率・ADRなども確認しながら、商品や価格、販売の方向性を考えています。
自施設の強みをどのように経営成果へつなげるか整理したい場合は、宿泊業の経営改善支援もご覧ください。

